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自然再生実地研修

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<報告>自然再生士実地研修(矢藤園農場/5月開催)に参加して

 

2016年6月3日から5日にかけて、静岡県長泉町の矢藤園農場で行われた自然再生士実地研修に事務局として参加しました。矢藤園農場は、スギ・ヒノキを主体とし、マツやクヌギ、コナラの混じる針広混交林に囲まれた面積約10ha、およそ50年の歴史をもつ農場です。この研修会は、現在使われなくなった農場を、自然再生士の皆さんの研修の場として開放したいという、東京・世田谷で(株)矢藤園を営む矢藤昭憲さんの熱い想いにより実現したものです。


私自身、事務所での連日のデスクワークから体調が思わしくなく、加えて自然再生の知識に乏しいため、実際の再生作業にどこまでついていけるかとても不安でした。しかし、その不安は杞憂に過ぎず、むしろ都会の喧騒や人混みを離れたこの研修のおかげで、心身ともにリフレッシュし、とても充実した体験となりました。その一部を少し紹介します。


参加者は現場でレクチャーを担当する養父先生(和歌山大学教授)をはじめ、矢藤園のスタッフ4名のほか、造園業やコンサルタント、林業関係者や環境教育のアドバイザーなど14名の方々でした。昨年樹木医になられた方も二人いて、昨年来の涙の再会となりました。皆さんは共通して「自然再生」に並々ならぬ関心をもち、一つの答え、あるいはヒントを求めてこの研修に参加されたようでした。


現地に到着して、まず何より森の景色や匂いに五感が敏感に反応し、パソコンで疲れた目に森の緑がジワジワ優しく薬草のように効きました。都心ではすっかり忘れていた鳥や虫の鳴き声に加え、体を通り抜ける心地よい風。これが俗にいう森林セラピー効果でしょうか。


初日は、森の学校ならぬ半屋外の倉庫の中で、養父先生から自然再生の基本について説明を受けました。全く知識がなくても大丈夫で、養父先生のわかりやすく含蓄のある話を聞きながら、フムフムとメモを取っているとすぐにA4用紙がいっぱいに。自分の無知さを痛感しました。その後皆さんと現場視察のさなか夕暮れを迎え、一日目は無事終了。予想に反し、この時点では全く疲れを感じません。夜は沼津インターグランドホテルのレストランで開かれた交流会に参加しました。沼津港が近いためかお刺身がとても美味しく、ひたすら食べることに集中し、皆さんとの交流がそっちのけに。


2日目は、いよいよ自然再生の実践的な技術をいくつか学びました。特に印象に残っているのは、養父先生が再三言われた「これまでの効率重視、スピード重視の造園作業はすべて忘れてください!」というものです。自然再生は目的や場所でその手法はさまざまですが、草刈りや伐倒木の搬出を効率重視でやると、保全すべき(この場所ではキンランやギンラン、エビネ、カンアオイなど)希少植物を痛めてしまうからです。養父先生から突如「作業ストップ!」の声がかかると、作業の早さが売りの造園経験豊富な皆さんも茫然自失。なぜ止められたのか、その理由がわからない。こんなにきれいに、しかも最速で作業しているのに……。そう言いたげなベテランの皆さんのカルチャーショックを受けたような顔が印象的でした。この日は適度に作業しましたので、幾分疲れはしましたが、なんとも心地よい充実感で満たされました。


夜は矢藤園さん自慢のバーベキューパーティーに参加。野外で皆さんと「これからの緑化は自然再生!」などとわかったようなことを話しながら、焼きたての肉を頬張りすっかりいい気分に。


3日目は、あいにくの小雨でしたが、河川域の生きもの調査の方法を体験しました。川の中の水生昆虫のいそうな場所を網ですくって虫を探すという行為自体が、幼年期へのタイムスリップ状態でしたが、なかなか思うようには見つかりません。1時間ほど奮闘した結果、水辺の生きものに疎い私でも、サワガニ、オニヤンマのヤゴ、カワニナぐらいはわかるようになりました。


実際に体験したことはこの10倍ぐらいありますが、誌面の都合でわずかしか伝えられないのが残念です。このたび参加された皆さん、矢藤園のスタッフの皆さんにまたこの場所で再会したいものです。


以上のような楽しい矢藤園農場の実地研修ですが、次回は10月に開催予定で、来年以降も年に2回ずつ定期的に実施していく予定です。私のように都市文明にどっぷり浸かっている方、カルチャーショックを受けたい方、自然再生のノウハウの基礎を学びたい方は、とにかく百聞は一見にしかず、是非参加してみてはいかがでしょうか。

(文:野口 淳)

 

 

    作業手順を伝える養父先生
   再生イメージを伝える矢藤昭憲氏

    河川域の生きもの調査の様子
     夜はバーベキューパーティー

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