家畜ふん堆肥の需要拡大の課題
1) 大規模生産者の取り組み
今回の調査で年間3,000トン以上の大規模生産者は48件あり、供給可能量全体に占めるウェイトは件数比で15.6%に過ぎないものの、数量比はバラで66.6%、袋詰で91.6%、両方合わせて79.8%と極めて高い供給力を保有している。

 この供給可能量を家畜ふん別にみると、バラでは牛58.2%、豚46.5%、鶏68.0%、袋詰では牛88.9%、豚の事例なし、鶏78.7%、両形態を合わせると牛73.5%、豚40.0%、鶏71.4%となる。すなわち、袋詰の牛ふん堆肥に関してはほぼ9割、鶏ふんでほぼ8割、それ以外は豚ふん堆肥を除きすべての供給形態で6割以上の供給シェアーを保持していることになる。

 平成11年の「家畜排せつ物の管理の適正化と利用の促進に関する法律」の制定を受けて、特殊肥料の届出を行う堆肥生産者は、野積み状態での堆肥生産・管理は規制を受け、屋根付きの、土中に浸透して地下水汚染の恐れのない発酵槽等の設備を整えることが義務付けられた。
 大規模堆肥生産者は、すでにこれらの設備投資を終えている事業所が大部分である。しかしながら、中小規模の堆肥生産者の中には、今後とも堆肥生産を継続するために、新たな設備投資をしなければならないところが相当数出てくること、あるいは、設備投資と将来の堆肥需要見通しを勘案し堆肥生産から離脱する生産者も想定することができる。

言い換えるならば、法改正が契機となって大規模生産者の供給シェアーを相対的に一層高めることも予想される。

さらに、肥料取締法の改正(平成11年7月)に伴い、特殊肥料の中の「たい肥」と「家畜及び家きんのふん」は品質表示の義務付けがなされることも合わせて考慮すると、大規模堆肥生産者の今後の取り組み、具体的には単価をいくらに設定するかという価格弾力性、いかにユーザーの希望する時期や希望する荷姿に合わせて販売できるかという供給弾力性が問われてくる。
ユーザー(あるいは作目)に応じた品質や仕様を備えた商品企画力を、現有の市場で現有の商品の販売シェアーを伸ばす(市場浸透戦略)、現有市場に新商品を投入する(製品開発戦略)、現有商品を新市場に振り向ける(市場開拓戦略)、あるいは新商品を開発し新市場を開拓する(多角化戦略)など、どこへ向けていくのか、大規模生産者の意志決定は、これからの家畜ふん堆肥の需要拡大に大きな鍵を握っていると考えられる。



2) 需給関係の改善
平成11年度は、家畜ふん堆肥の需要部門として緑化樹木・山林種苗生産について検討を行った。この分野における家畜ふん堆肥の需要拡大には、次の4つの需給ギャップを解消していくことが課題と考えられる。


 堆肥生産者は、家畜ふん堆肥の品質に対するユーザーの一般的な考え方、要求度を把握することが重要である。利用上の問題点に「腐熟が不完全」との意見がみられた。これは腐熟度に対する供給者と需要者の間に認識ギャップがあると考えられる。すなわち、ユーザーは入手した堆肥をそのまま使用したり、入手後に何らかの手を加えて使用したり、あるいは、利用目的を養分補給のみならず、肥効期間の持続や土壌改良などのいずれに主眼を置くかによって要求する「腐熟度」にも相異が出てくる。

 このため、供給者は現在生産している堆肥の性質と用途を十分認識し、的確にユーザーのニーズを把握し、自社の堆肥利用が最も向くユーザーの選別(市場の細分化)を心掛ける。一方、需要者は利用目的に合う品質を備えた堆肥の選択を行うために、必要な情報を収集し検討することが大切となる。


 需給情報源を明らかにすることが必要である。堆肥生産者の供給情報に関するガイドブック、パンフレット、ホームページ等を作成している都道府県は少ない。アンケート調査結果によれば、堆肥生産者がパンフレット等を作成している事例は3割程度であった。
 
 堆肥の販売先タイプの中で、緑化樹木生産を主とする事例は1.9%であることも考え合わせると、両者間に情報ギャップの大きいことがわかる。堆肥生産者も緑化樹木・山林種苗生産者もともに、的確な情報源と情報チャンネルを構築する必要性が高い。


需給の地域差を考慮した販売エリアの構築を模索することである。現状、堆肥生産量の多い都道府県と緑化樹木・山林種苗生産の多い都道府県とは必ずしも一致しない。堆肥の販売先エリア「自市町村内を主」とする回答がおよそ半数であったことは、家畜ふん堆肥の低運搬能性、重嵩性などの商品特性に依存している。緑化樹木もまったく同様の商品特性を持っているにもかかわらず、全国的に広域流通している実態にある。
販売エリアは自場消費を主軸としても、需給の地域差を考慮するとその供給エリア構築には十分検討の余地が残されているといえよう。


 食物残さリサイクル事業では、食物残さを飼料化、堆肥化し、その堆肥を使用した高付加価値野菜を卸・小売りなどが優先的に買い付ける方式を採用している。あるいは、廃木材を材料とする再生建材製造メーカーは、建設業界からの引き取り依頼に対して、再生建材の優先利用を廃木材受け入れの条件に提示している。これらの例は、廃棄物処理の循環の輪を構築するとともに、関係者間にできるだけ強固な補完関係を創出することに力点を置いている。

 緑化樹木・山林種苗生産ともに、土地依存型の経営であり、緑化樹木は特に長期生産物である。家畜ふん堆肥の利用が、病虫害の影響が少なく、生産歩留りの広い高付加価値樹木生産につながることにより、収益性の改善が図られるならば、緑化樹木生産者にとって家畜ふん堆肥を利用するインセンティブとなり得る。

 さらに、そのように栽培された樹木が、病虫害への耐性に優るとなれば、緑地管理面での省力化・省コスト化を期待できる。これらの点は、今後実証試験等によりデータの収集・提供を行なわなければならない。

 需給関係改善の4番目の視点は、たとえば食物残さリサイクル事業が生み出した、一農家・法人内での家畜ふんなどを利用したリサイクル(小循環)、耕種農家と畜産農家の連携(中循環)、都市(メーカー、小売り、外食など)と農村の提携(大循環)のような、段階別の循環サイクルと各々の中での強固な補完関係を開拓していくことである。また、再生建材メーカーの事例のように、これまで製品サイクルの末端に位置付けられてきた再資源化業者の開拓・育成も、新たな循環システム構築のカギを握るものとなる。