富山市長・(財団法人)日本緑化センターの勝訴が確定
呉羽丘陵健康とゆとりの森整備事業差止め等請求事件の上告等申立てに対する最高裁判所の決定
平成3年度から5年度にかけて、富山市が実施した「呉羽丘陵健康とゆとりの森整備事業」に関し、一部住民等が工事の差止め等を求めて起こした訴訟については、すでに平成11年2月24日名古屋高等裁判所において、富山市長及び本事業の基本計画を作成した日本緑化センターの全面勝訴とする判決がなされていたところです。しかし、原告側はこれを不服として、最高裁判所に上告等の申立てをしていましたが、最高裁判所第一小法廷は、別添のとおり去る4月11日、5名の裁判官全員一致の意見で「本件上告を棄却する」、「本件を上告審として受理しない」との決定を行い原告側の申立てを退けました。
これによって、富山市が本件事業を適正かつ適法に行ったこと及び日本緑化センターの基本計画作成が適切に行われたとする名古屋高等裁判所の判決が確定いたしました。
もとより日本緑化センターは、設立以来一貫して緑化に関する調査・研究、技術開発、人材養成など各般に亘る活動を展開し、技術と知見の蓄積を図るとともに、その技術力を活用して業務を推進しております。このことは本訴訟の対象とされた呉羽丘陵健康とゆとりの森整備事業の基本計画作成業務に係る名古屋高等裁判所の判決においても適切に認定・判断されたところでありますが、裁判の過程で一時的にせよあたかも丸投げしたかのごとき判断をなされ、関係の皆様に大変なご心配とご迷惑をおかけしたことを心からお詫び申し上げますとともに、重大な誤判断を是正すべく名古屋高等裁判所での控訴審に、自ら富山市長の補助参加人として訴訟に参加した日本緑化センターの訴訟代理人として、私どもの訴訟遂行にご尽力頂きました高田敏明弁護士に厚く御礼申し上げます。
ここに標記裁判の終局をご報告するとともに、今後ともこの苦い経験を無駄にしないように一層適切な事業の推進に役職員一丸となって努めて参りたいと考えておりますので、引き続きご理解、ご支援をお願い申し上げます。
(参考資料)
1 呉羽丘陵健康とゆとりの森整備事業差止等請求事件の上告等申立てに対する「平成13年4月11日 最高裁判所第一小法廷の決定」の内容
決 定
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
上記当事者間の名古屋高等裁判所金沢支部平成8年(行コ)第6号、第7号呉羽丘陵健康とゆとりの森整備事業差止等請求事件について、同裁判所が平成11年2月24日に言い渡した判決に対し、上告人兼申立人らから上告及び上告受理の申立てがあった。よって、当裁判所は、次のとおり決定する。
主 文
本件上告を棄却する。
本件を上告審として受理しない。
上告費用及び申立費用は上告人兼申立人らの負担とする。
理 由
1 上告について
民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法312条1項又は2項所定の場所に限られるところ、本件上告理由は、違憲及び理由の不備・食違いをいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。
2 上告受理申立てについて
本件申立ての理由によれば、本件は、民訴法318条1項の事件に当たらない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
平成13年4月11日
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 深 澤 武 久
裁判官 井 嶋 一 友
裁判官 藤 井 正 雄
裁判官 大 出 峻 郎
裁判官 町 田 顯
注:当事者の目録については掲載を省略しますが、決定文中の「上告人兼申立人ら」は本件訴訟を起こした原告側の住民等です。
2 呉羽丘陵健康とゆとりの森整備事業差止等請求控訴事件の経緯概要
(1)富山市は、同市近郊の呉羽丘陵において、市民の憩いの場として親しめるように森を整備することとして、平成3〜5年度にかけて、「呉羽丘陵健康とゆとりの森整備事業」を実施した。そしてその基本計画・基本設計の策定については日本緑化センターと業務委託契約を、森林整備については富山市の森林組合と請負契約を、それぞれ随意契約で締結した。
(2)この整備事業に関して、一部の住民等(以下「原告側」という)から自然環境を破壊する違法行為であるとして、平成5年、富山地方裁判所に富山市及び富山市長を相手取り、工事及び公金支出の差止め、損害賠償等を求める訴訟が提起された。
(3)一審の富山地方裁判所は、平成8年10月16日、工事及び公金支出の差止め請求については原告側請求を棄却したが、富山市長が本件整備事業の基本計画等の作成の業務委託契約を日本緑化センターと、整備事業の請負契約を富山市の森林組合と、それぞれ随意契約で締結したことについて、他の業者との比較検討をした形跡がないこと等を理由に違法と断定し、富山市長に対し約200万円の損害賠償を命じた。
(4)この一審判決については到底納得できるものではなく、富山市長側はただちに控訴し、原告らも工事差止請求の棄却を不服として控訴した。
(5)日本緑化センターは、判決理由の中で、日本緑化センターには専門家がおらず受託業務の遂行能力がなかった、実質上丸ごと再委託先に業務をさせたなど甚だしく、かつ、重大な事実誤認をなされ、このまま放置すれば日本緑化センターがこれまで培ってきた信頼と技術力が否定されることとなるため、自ら積極的に裁判に参加して、事実関係を明確にするべきであると判断し、民事訴訟法による「補助参加」を名古屋高等裁判所金沢支部に申し出、以来、日本緑化センターは富山市側の補助参加人として訴訟活動をしてきた。
(6)名古屋高等裁判所の控訴審では、平成9年3月以降9回の口頭弁論(うち証人尋問4回)が行われ、第一審では審理されなかった新たに提出された証拠等が徹底的に審理された。日本緑化センターは、当時の本件委託業務の担当者が事前調査及び計画作成段階での現地調査を含めて延べ5回富山市に赴いていることを証する関係証拠、現地調査時の写真、作業を委託したコンサルとの打合せ証拠書類等を提出するとともに、直接担当した当センターの元緑化技術部長大久保昭氏の証人尋問により、同氏が行った森林利用のゾーニング、植栽樹種の選定、森林施業方法の決定等々の業務内容に関する具体的かつ詳細な事実関係についての立証を尽くした。
(7)この主張立証の結果、名古屋高等裁判所は、平成11年2月24日原告側の請求すべてを棄却し、第一審の富山地方裁判所の判断の誤りを認め富山市長及び日本緑化センター側の主張立証のとおり、富山市が日本緑化センター及び森林組合と締結した前記随意契約はいずれも適法とする判決がなされた。
(8)この判決の中で、日本緑化センターとの随意契約に関しては大要次のように適法と判示した。
@富山市が日本緑化センターと、健康とゆとりの森整備事業の基本計画・基本設計の策定に係る業務委託契約を、随意契約の方法によって締結したことに関しては、この委託業務が本件整備事業の根幹に係わるものであり、競争入札によって安価な落札者と契約するよりは、事業の趣旨・目的を理解し、相応の信用、技術(ノウハウ)、実績を有する相手方を選定して、その者との間で個別に契約を締結することが望ましい状況にあったと認め、随意契約が望ましい状況にあったことを認定した。また、日本緑化センターが都市周辺林の整備や都市近郊の緑化推進事業等々を全国各地で実施してきた実績があること、当時実働職員が約20名おり本件委託業務を担当した緑化技術部は5名で構成されていた事実を認定しその実施能力等を認め、同契約を締結したことには十分な理由があるとし、富山市が日本緑化センターと随意契約を締結したことの正当性を認めた。
A日本緑化センターの本件委託業務の遂行については、日本緑化センターは少なくとも資料収集、現地調査、設計といった実務的作業の大半を再委託しているが、本件委託業務の実質的な責任者であった元日本緑化センター緑化技術部長大久保昭氏が基本構想の策定に直接携わっていること、再委託した業務の円滑な遂行のために再委託先の担当者に対して必要な指導・監督を適宜していたことを認めた上で、この再委託によって本件委託業務の遂行に支障をきたしたこともないと認定し、第一審の判断を全面的に覆し、日本緑化センターが再委託した業務の指導監督も含めて適切に業務を遂行したと認定した。
(9)この控訴審判決を不服とし、原告側は平成11年3月最高裁判所に上告及び上告受理の申立てをした。
(10)最高裁判所第一小法廷は、資料1のとおり平成13年4月11日、この申し立てを棄却する等の決定を行った。